THANK U 8
「すみませ~ん。
お待たせしました~」
すぐにユノさんは出てきた。
服装はキチンとしていたが、
髪はまだ濡れていて、肩にタオルをかけている。
待っていたお客さんは常連さんだったので、
何度も謝るユノさんに、
「いいよ、いいよ」と笑ってる。
「こんな時間にどうしてシャワーなんか浴びてたんですか?」
不思議に思って、俺はユノさんに聞いた。
まだ、営業時間中だ。
「棚にあった蜂蜜の瓶を倒しちゃって、蜂蜜まみれになっちゃったんだよ。」
シフォンケーキ用の蜂蜜が棚に置いてある。
「ベタベタになっちゃってさ~
お客さん、誰もいなかったし、
ちゃちゃっとシャワーで流しちゃおうかと思ったんだけど………
蜂蜜って意外に落ちなくて~」
ユノさんは笑った。
「蜂蜜まみれのユノ君かぁ~
いいねぇ~
美味しそうだねぇ~」
常連さんがニヤニヤしながら言った。
「はぁ?
何言ってんだコイツ!」と思ったが、
俺もちょっとそう思った。
蜂蜜まみれのユノさん。
美味しそうだ。
舐めたい。
いやいやいや………
「はい、ミノ。
いつものブレンド。
おまたせ。」
頭の中のモヤモヤを追い払っていると、
ユノさんが俺の目の前に珈琲を置いてくれた。
「ありがとうございます。
あれ?」
ふと見ると………
ユノさんが肩にかけているタオルが赤く滲んでいる。
血が付いているみたいだ。
「ユノさん。
タオルに血が付いてるよ。
どこか怪我した?」
「え……?」
ユノさんは、びっくりしてタオルを外した。
「ほんとだ。
瓶が倒れた時どこか切ったかな。」
「え?
大変だ。
どこ?頭?
見せて?」
「大丈夫だよ。
どこも痛くない。
あ、いらっしゃいませ~」
ちょうどその時、
別の客が入ってきたので、
ユノさんは、オーダーをとりに行ってしまった。
結局、
その日は、ユノさんがどこを怪我をしたのか解らなかった。