苦いチョコレート

東方神起ミンホ。闇小説(ホラー&暴力系)多し。

THANK U 3


その夜は、他に客もいなかったので、


俺は店員さんとずっと話をしながら、


台風が過ぎ去るのを待った。




話しながらお互いに簡単な自己紹介した。




「チェ・ミノです。

市役所に勤めています。

この裏のアパートに住んでいるんです。」




俺は店員さんに名刺を差し出した。




「高齢者福祉課ですか~

大変でしょ~」




店員さんは、店員さんではなく、

この店のオーナーだった。




「チョン・ユンホていいます。

ユノって呼んでください。」




従業員はいなくて、一人でこの店をやっているそうだ。




「小さな店ですしね。

俺一人でやっているんです。

ほんとは俺みたいなおっさんが接客するより、

かわいい女の子にでもバイトをお願いすればいいんでしょうけど……」




「そんな余裕はなくてね……」とユノさんは笑った。




「夜遅くまで営業していますよね?

大変じゃないですか?」




俺はユノさんに聞いてみた。


だって、ここ11時open、

23時closeだから、


12時間も一人で店番していることになる。




「どうせ俺……独り身なんで暇なんですよ。

だから大丈夫です。」



「トイレが困るんですけどね。

お客さんのいない時にササッと行かなくちやいけなくて~」

と、恥ずかしそうに笑うユノさんの綺麗な笑顔に、


俺は久しぶりに胸の奥がザワザワしたが、


いくら綺麗でも相手は男だ。



俺は小さく騒ぐ胸の音に無理矢理蓋をした。




やがて台風は通りすぎ、

雨風が収まったので、

俺はユノさんに礼を言うとアパートに帰った。




それ以来、


仕事の帰りにはこのカフェにより、

ユノさんのいれてくれた珈琲を飲み、

ユノさんと話をしてから帰るのが、


俺の日課になった。

THANK U 2



「いらっしゃいませ。

好きな席におかけください。」



ふりふりエプロンのイケメンは、

俺を席に案内してくれた。




「雨が酷いですね。

どうぞお使いください。」




ふりふりエプロンのイケメンはそう言うと、

俺に乾いたタオルを差し出した。



差し出されたタオルはピンク色で端にレースが施され、

ウサギの刺繍がしてあるなんともファンシーなタオルだった。



「あ、ありがとうございます。」



俺はそのタオルを受けとると、

雨に濡れたスーツや鞄を拭いた。



タオルからは花のようなよい香りがした。



「何になさいますか?」



俺はメニューを見た。



色んな種類のコーヒーが並んでいる。


裏面はケーキだ。



コーヒーは好きだが、

豆の種類までは詳しくない。



「えっと……

今日のおすすめのブレンドをお願いします。」




「はい。

ホットになりますが、よろしいですか?」




「はい。」




「少々お待ちください。」




ふりふりエプロンのイケメンは、カウンターの奥に下がっていった。



すくにコーヒーのよい香りが漂ってきた。




俺はコーヒーを待つ間、改めて店の中を見回した。



外観は何度も見ていたが、店内を見るのは初めてだった。



店の中は白と木目で統一され、落ち着いた色合いの作りだった。



そこかしこに花や動物の小物が飾ってある。



ウサギ、

鳥、

猫、

犬、



いかにも女の子が好みそうな小物だ。



その小物の周りを、リボンやレースで飾り付けしてある。




小物はWeb販売しているらしい。


URLの案内が貼ってある。





「お待たせしました。」




「ありがとうございます。」



コーヒーが運ばれてきた。


いい香りだ。


味も好みだ。


癖がなくマイルドだった。



店内はk-popが流れ、

ほどよい温度だったが、


外はいつのまにか暴風雨だった。



雨が窓ガラスにバチバチと叩きつけられ、


風で窓枠がガタガタと揺れている。


窓から外を見ると、

豪雨のせいで辺りが真っ白になってみえる。




「お客様……失礼ですが、家はお近くですか?」




ふりふりエプロンのイケメンが俺に聞いた。




「はい、すぐそばです。」




「そうですか。

台風の接近が早まったみたいで、

今ちょうどこの辺りを通過しているようです。」




「え?

そうなんですか?」




俺は携帯を出し、

天気予報を確認した。




「ほんとだ。

ちょうど真上だ。」




「よろしければ雨風が収まるまで、

ゆっくりしていってください。」




ふりふりエプロンのイケメンは、「サービスです。」と焼菓子を乗せたお皿を、

俺のテーブルに置いた。




「いいんですか?

ご迷惑じゃないですか?

あなたが帰れなくなっちゃいませんか?」




ふりふりエプロンのイケメンは「大丈夫?」と笑った。



「俺、この店の奥に住んでいるんです。

だから大丈夫です。

他にお客様もいませんし。

天気が落ちつくまでゆっくりしていってください。」




「ありがとうございます。」




これが俺チェ・ミンホと、


ふりふりエプロンのイケメン、チョン・ユンホとの出会いだった。

THANK U 1




家のそばに小さなカフェがオープンした。



コーヒーがメインで、

ケーキや焼菓子を置いているらしい。



店の前を通る度にコーヒーの良い匂いに癒され、入ってみたいと思うのだが、


いかんせん店構えがファンシー過ぎて、


男の俺にはちょっと敷居が高かった。



営業時間は23時までとけっこう遅くまでやっているのだが、


いつみても店内は女性でいっぱいで、

やはり男1人では入りずらかった。




ある日の仕事の帰り道……


その日は夜中に台風が直撃するとかで、


すでに大雨が降っていたため、

通りに人影はほとんどなかった。


俺も台風の暴風雨に巻き込まれないように、

早く家に帰ろうと、


アパートに向かって足早に歩いていた。



あのカフェの前を通ると、

まだ灯りが点いていた。



台風のため、

ほとんどの店が早じまいしているのに、

ここは閉めないのだろうか。


悪天候のせいか、

店内に人影がない。



今なら、コーヒーの一杯くらい飲めるかな。




俺は思いきってファンシーな扉を開けてみた。




扉に手を掛け手前に引くと、



チリンチリンと、


かわいらしい音が響いた。





「いらっしゃいませ~」




店の中にいた店員は、


胸と左側のポケットに苺の刺繍がしてあり、


白いフリルがたくさんついた、


なんともファンシーなエプロンを着けた、


恐ろしくイケメンな大男だった。