THANK U 14
「大丈夫か?」
刑事がカップに入ったコーヒーをくれた。
近くのコンビニで売っているやつだ。
「ありがとうございます。」
俺はコーヒーを受け取ると一口飲んだ。
ユノさんがいれてくれたものとは比べ物にはならないが、
温かくてうまかった。
ショックで固まっていた俺の身体に、コーヒーの香ばしい薫りが染み渡った。
俺はため息をついた。
「落ちついたか……?」
「はい。」
俺はうなずいた。
いつの間にか……警察官が増えている。
鑑識らしき人達もたくさんいて、
冷凍庫から遺体を運び出している。
俺はそれを横目で見ながら刑事に聞いた。
「あの………
あの遺体は……いったい誰なんですか?」
「ん?
ん~………」
刑事はしばらく考えていたが……「まぁ……いいか……あんたも被害者だもんな……」と呟くと、話してくれた。
「あの首の無い遺体は……おそらく……シム・チャンミンだ。
東方組組長の娘婿だった男だ。
時期組長と噂されていた男だ。
バラバラ死体の方は……組の若い者だ。」
やっぱり遺体は二人分なんだ……
「ユノさんが……殺したんですか?」
あのユノさんが……人殺しだなんて……
だが……どう見たって……
「バラバラ死体の方はまだ新しい。
おそらくやったのはチョン・ユンホだ。
だが、シム・チャンミンを殺したのはチョン・ユンホじゃない。」
刑事は断言した。
「シム・チャンミンはもともと死んでいたんだ。
チョン・ユンホは……死体を冷凍庫に入れていたのさ。」
死体を?
ユノさんが?
なぜ?
俺の顔にはきっとでっかい「?」が張り付いていたのだろう。
俺の疑問に答えるように刑事は教えてくれた。
「シム・チャンミンとチョン・ユンホはデキていたそうだ。」
「え………?」
「男同士で乳くりあっていたんだとさ………」
刑事は嫌そうな顔をした。
「それがシム・チャンミンの奥方にバレて……
シム・チャンミンは怒り狂った奥方に殺されたってもっぱらの噂だ。
ま……もっとも……すでに組の若いのがシム・チャンミン殺しを自主して……服役中だがな……」
「………………」
「チョン・ユンホは……長年組長の愛人だったんだ。
男妾だったって………
だからシム・チャンミンが殺されて……
チョン・ユンホは若頭から降格されて監禁されていたらしいが……」
愛人?
ユノさんが愛人?男妾?
「それが……シム・チャンミンの葬儀の晩………
組員が目を離した隙に、シム・チャンミンの遺体が消えて……
チョン・ユンホも逃げていなくなったそうだ。」
「それって………」
「東方組は血眼になってチョン・ユンホとシム・チャンミンの遺体を探したんだが、見つからなかった。」
「シムさんて人は……死んでなかったってことですか?」
俺は刑事に聞いた。
「それはない。」
刑事はきっぱりと言った。
「当時、俺も担当刑事だった。
撃たれて胸にデカイ風穴の開いたシム・チャンミンの遺体を見た。」
「もう……6年くらい前の話だ。」
刑事は思い出すように遠くを見た。
「じゃあ………」
「おおかた……チョン・ユンホは、諦めきれずに……
愛しい男の遺体を持ち歩いていたんだろう……
冷凍庫に入れてな……」
「そんな………」
「こんな所で……喫茶店のマスターをやっていたとはな……
見つからないわけだ。
まあ……デカイ冷凍庫を隠すにはもってこいだよな。
だがついに……見つかっちまった。
そんなところだろう………」
東方組……ヤクザの若頭……
殺人……
冷凍庫に遺体……
ヤグサの組長の男妾………
どれ一つとして……俺の知っているユノさんとは、
結びつかなかった。