THANK U 16
「おはようございます。」
「あら、ユノちゃん。
おはよう。」
「これお願いします。
いい天気ですね。」
「ほんとにね~
あ、ユノちゃん、夕べ杏を煮たのよ。
持ってって。」
「うわ、うまそう。
ありがとうございます。」
光州市郊外の山の中……
秘境のような山あいの小さな村の、さらに一番奥に建っていた小さな廃屋に、
若い男が越してきた。
男は軽トラックにわずかな家財を積んで越してくると、
一人で廃屋を修理しはじめ、
あっという間に人が住める状態にした。
幸い電気は送電されていたし、
水は近くに小さな川があったので、
ライフラインには困らなかった。
ある日突然廃屋に灯りがともったので
村の人々は驚いた。
驚いた村の人々が恐る恐る様子を見に行くと、
びっくりするくらい綺麗な男が、
一人で作業していた。
男はユノと名乗った。
明るく気さくな男で、村人はみんなユノのことが好きになった。
村人は突然現れた男の素性に興味津々だったが、
ユノはあまり多くは語らず、花のように笑うだけだった。
「何か事情があるんだろうなぁ~」
「そりゃそうでしょ。
あんなイケメンのお兄ちゃん。
こんな山ん中に1人でさ……」
「どっかから……逃げてきたのかな……」
「変な奴らが追いかけてこないといいねぇ……」
「そしたらさ……みんなで庇ってあげようよ。」
「そうだなぁ~」
村人はみんな……なんとなくユノの事情を察し、
そっと見守ってくれた。
「は~……ただいま~」
ユノは村で購入したわずかな食料をテーブルの上に置いた。
「チャンミン、ただいま。
今日は杏をもらったよ。
おいしそうだ。」
ユノは誰もいない部屋の中で、一人言のように話し始めた。
村での出来事をまるで誰かに聞かせるように話している。
掃除をし、
家事をし、
家の修復を続け……
あっという間に1日が終わる。
落ちついたら、
庭に小さな畑を作ろうと思っている。
ちょっとした野菜くらいなら、自分で育ててみたい。
陽がくれて……
簡単な夕食を一人で食べ、
湯を浴び、寝間着に着替えた。
「チャンミン……もう寝ようか………」
ユノは寝室にある小さなクローゼットの扉の前に立つと……そう言った。
クローゼットの扉は上下に別れていて、
上の扉には鍵が付いている。
ユノは引き出しから小さな鍵を取り出すと、
上の扉の鍵穴に差し込んだ。
鍵はカチャリと音をたて外れた。
ユノはゆっくりと扉を開いた。
扉はキィ……と渇いた音をたて左右に開いた。
扉の中には、銀色の小さな冷凍庫があった。
卓上サイズの冷凍庫だ。
「チャンミン………」
ユノは愛しそうに呟くと、
冷凍庫の扉を開いた。
中には……まるで作り物のような……
人間の生首が入っていた。
生首は凍っているのだろう。
はだも唇も真っ白で……室内の灯りに照らされ……青白く光っている。
閉じられた瞼は長い睫毛で縁取られ、
その瞼は今にも開きそうだった。
髪の毛は明るいブラウンで少し霜が付いている。
ユノは生首を大事そうに取り出すと、
胸に抱え、髪の毛についた霜を払った。
「チャンミン……
今日も良い日だったよ。」
そう言うと……生首の冷たい唇にそっと口付けた。
しばらく大丈夫そうに抱えていたが、
あまり長く抱えていると、生首が溶け出してしまう。
「チャンミン……
お休み……
また、明日な……」
ユノは名残惜しそうに生首を冷凍庫に戻すと、
また扉を閉め鍵をかけた。