THANK U 5
「あ、ミノいらっしゃ~い。
おかえり~」
カフェに入るとユノさんの綺麗な笑顔が迎えてくれた。
それだけで癒される。
俺専用のスツールに座ると、
ユノさんがオーダーを聞いてくれる。
「いつものでいい?」
「はい、お願いします。」
この“いつもの”ってのが大事だ。
いかにも常連って感じで、ちょっと優越感が湧く。
程なくして、良い香りと共に“いつもの”珈琲が俺の目の前におかれた。
「はい、どうぞ。
お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
俺は一口飲んで、ため息をついた。
ユノさんの優しい声と笑顔、
それにうまい珈琲で、
1日の疲れも吹っ飛ぶ。
今日はさほど混んでいない。
俺の他に、
カップルが一組と、
女性の二人連れが一組、
あと常連の近所の老婦人が一人いた。
「そういえば……ユノさん。」
「ん?
何?」
俺の呼び掛けに、ユノさんが珈琲豆を挽きながら、きゅるんとした視線を向けてくれる。
かわいい。
「この前から……この辺……
変な車が停まっていないですか?」
「車……?」
ユノさんが手を止めた。
「はい、なんか……その道の方々っていうか……
黒塗りのいかにもって感じの車です。」
「いつ?
いつ見たんだ?」
ユノさんの声が固くなった。
「今来るときもいましたよ。
あとは……一昨日かな。」
「あ、私もそれ見たわ。」
カウンターの側に座っていた常連の老婦人が話しかけてきた。
「道路の向かい側だったけど、
路駐していたわ。
この辺じゃ、あんな変な車珍しいから『なんだろ?』って思ったの。」
老婦人は窓から外を見た。
「なんだか……このお店の様子をうかがっているみたいだったから、
気になったのよね。」
老婦人は「割り込んでごめんなさいね。」と、
俺に声をけた。
「ユノさん?」
ユノさんは俺達の話に、
うつむき何か考えている様子だった。
「あ……うん何?」
「何か心あたりがあるんですか?」
俺はユノさんに聞いた。
「いや……何もないけど……
嫌だな……と思って……」
「怖いわよね。」と、老夫人がつぶやいた。
「ユノちゃん、美人さんだし、
一人暮らしだから、
変なのに目を付けられたら大変。
気をつけてね。」
「あ~は~は~………ありがとうございます~」
老婦人の言葉にユノさんは可笑しそうに笑った。
まぁ……美人だけど、
男だしなぁ……
女性の独り暮らしって訳じゃないし……
俺はこの時呑気に、そう考えていた。