苦いチョコレート

東方神起ミンホ。闇小説(ホラー&暴力系)多し。

THANK U 9



次の日も俺は大残業だった。



コロナ禍でうちの課もほんとにやることが多い。




ヘトヘトになりながら帰宅の途につき、


ユノさんのカフェの前に着いた時には、

もう22時45分を過ぎていた。



カフェは23時までだ。



もう、ダメかな………


こんな閉店間際に行ったら迷惑かな………


ああ……でも………

疲れている時こそ、あの笑顔を見て旨い珈琲が飲みたい。



テイクアウトで頼もうかな。




「こんばんは~」




チリンチリンとドアベルを鳴らしながら、俺はユノさんのカフェに入った。




「はい、いらっしゃいませ~

あ、ミノ~

おかえり~」




く~……俺の癒しの天使myAngel




「遅くにすみません。

まだ、大丈夫ですか?」




「もちろんもちろん。

大丈夫だよ。

座って座って。」




「ありがとうございます。」




「今まで仕事?」




ユノさんが慣れた手つきで、俺のために珈琲をいれてくれる。




ああ……この姿を動画で撮って大画面でずっとリピート再生したい……




「はい、お待た…せ………」




ユノさんが俺の前にカップを置こうとした時……


ユノさんの視線は、窓の外に向けられ手が止まった。



俺は不審に思い、振り返り窓の外を見た。




黒塗りのセダン車が店の前に音もなく横付けしてきた。




車の窓ガラスが下がったと同時にチカっと何かが光った。




「ミノ!!

伏せろ!!」



ユノさんがカウンターから腕を伸ばし、

俺をスツールごと床に引き倒した。




「えっ!?」と思った次の瞬間………




バリバリバリバリ………


という炸裂音と、



ガチャンガチャンという


ガラスの割れる音が響いた。




肩に激しい痛みが走った。




「うわっ!!」




「ミノ!!

床に伏せてろ!!

動くな!!」




カウンターの向こうからユノさんの声が響いた。




何が起こったのか解らなかった。



ただものすごい炸裂音とガラスの割れる音……


頭の上から雨のように降り注ぐ、何かの破片……



それから焼けつくような肩の痛み。




俺はユノさんの言葉に従い、必死に床に伏せた。




とても長い時間のように感じたが、

実際は一瞬の出来事だったのかもしれない。




「ミノ!!

大丈夫か!?

ミノ!!」




気がつくと、

目の前にユノさんの綺麗なドアップがあった。

THANK U 8




すみませ~ん。

お待たせしました~」




すぐにユノさんは出てきた。



服装はキチンとしていたが、

髪はまだ濡れていて、肩にタオルをかけている。




待っていたお客さんは常連さんだったので、


何度も謝るユノさんに、


「いいよ、いいよ」と笑ってる。




「こんな時間にどうしてシャワーなんか浴びてたんですか?」



不思議に思って、俺はユノさんに聞いた。


まだ、営業時間中だ。



「棚にあった蜂蜜の瓶を倒しちゃって、蜂蜜まみれになっちゃったんだよ。」



シフォンケーキ用の蜂蜜が棚に置いてある。



「ベタベタになっちゃってさ~

お客さん、誰もいなかったし、

ちゃちゃっとシャワーで流しちゃおうかと思ったんだけど………

蜂蜜って意外に落ちなくて~」




ユノさんは笑った。




「蜂蜜まみれのユノ君かぁ~

いいねぇ~

美味しそうだねぇ~」



常連さんがニヤニヤしながら言った。



「はぁ?

何言ってんだコイツ!」と思ったが、


俺もちょっとそう思った。




蜂蜜まみれのユノさん。


美味しそうだ。


舐めたい。



いやいやいや………




「はい、ミノ。

いつものブレンド。

おまたせ。」




頭の中のモヤモヤを追い払っていると、


ユノさんが俺の目の前に珈琲を置いてくれた。




「ありがとうございます。

あれ?」




ふと見ると………




ユノさんが肩にかけているタオルが赤く滲んでいる。


血が付いているみたいだ。




「ユノさん。

タオルに血が付いてるよ。

どこか怪我した?」




「え……?」




ユノさんは、びっくりしてタオルを外した。



「ほんとだ。

瓶が倒れた時どこか切ったかな。」




「え?

大変だ。

どこ?頭?

見せて?」




「大丈夫だよ。

どこも痛くない。

あ、いらっしゃいませ~」




ちょうどその時、

別の客が入ってきたので、

ユノさんは、オーダーをとりに行ってしまった。



結局、

その日は、ユノさんがどこを怪我をしたのか解らなかった。

THANK U 7




俺は好奇心に負け、

ユノさんのプライベートな部屋の扉を開いた。




「ユノさん?」




電気は点いていた。




部屋の中は広いワンフロアーだった。



パッと見………


家具の無い部屋だった。



手前に小さなキッチンがあり、


奥にベッドがある。


ベッドといっても、

マットレスと毛布が置いてあるだけだ。



壁際にハンガーに吊るされた服が何枚か掛かっている。



それ以外は何も無い。


テレビもレンジも無い。


キッチン周りも何も無い。




ただ……


小さなキッチンの脇に、

妙にデカイ冷蔵庫がある。



銀色の業務用みたいな冷蔵庫だ。



何も無い部屋で、その大きな銀色の冷蔵庫が異彩を放っていた。



店で使う物でもしまってあるのだろうか……




バスルームらしき場所から水音がする。



まさか……店を開けたまま風呂に入ってるんだろうか……




「ユノさ~ん!」




俺は少し大きな声で、

ユノさんを呼んだ。




「誰だ!?」




ユノさんがバスルームらしき場所の扉を開け、顔を見せた。



上半身裸で髪もビショビショだ。



ホントに風呂に入ってたのか?




「わっ……!!

すみません。

お客さんが来てますけど、帰ってもらいますか?」




俺は裸のユノさんから目を反らすと、

聞いた。




「あ、ミノ。

ごめんごめん。

すぐ行くよ。

時間が大丈夫そうなら、待っててもらって。」




「解りました。」




俺は静かに扉を閉めた。