苦いチョコレート

東方神起ミンホ。闇小説(ホラー&暴力系)多し。

THANK U 12



「あれ……!

あんた……」




カフェの中にいた男が俺に声をかけてきた。


警察関係者だろうか……



男は床に散乱しているガラスの欠片を避けながら、

俺に近寄ってきた。



男が歩く度に、靴の裏に踏みつけられたガラスの破片が、バリバリと渇いた音をたてた。




「あんた、夕べここで撃たれた人だよね?」




男は俺に聞いた。




「はい…………」




「もう退院してきたの?」




「はい……さっき……」




俺は頷いた。




「そうか……

よかった。

話を聞きに行こうと思ってたんだ。

俺は、こういう者です。」




男は胸ポケットに入れていた名刺入れから名刺を出すと、俺に差し出した。



名刺には刑事と書いてあった。




組織犯罪対策課………



これって………




「あなたは、ここのカフェのオーナーと親しかったそうですね?

他の方々にも聞いたんですが、

皆さん、あなたが一番親しかったっておっしゃるんですよ。」



「はぁ………

まぁ………」



「失礼ですが……

オーナーとはどのような関係でしたか?

友人?

それとも……恋人?

恋愛関係でしたか?」




は……?


恋人?




「違いますよ!!

恋人なんかじゃありません。

ただの………常連客でした。

第一……恋人って……

ユノさん……オーナーは男性ですよ。」



「そうですか………」



と、刑事はため息をついた。




「ここのオーナーは、チョン・ユンホですね。」



刑事は確認するように俺に聞いた。




「はい、そうです。」




「この人ですか?」




刑事は携帯を操作すると、

一枚の画像を俺に見せた。



そこには………



ダークグレーのスーツをビシッと着こなし、

髪をオールバックにセットし、

タバコをくわえ、

険しい表情をした男が映っていた。



鋭い目付きと、

眉間の深いシワ、

タバコをくわえた歪められた口元は、

強面の……いかにもその筋の男のように見えた。



それは………

俺が知っているユノさんとは、あまりにかけ離れた人物のように見えた。




「似てますけど………

別人だと思います。」




俺の答えに刑事は薄く笑った。



「皆さん、そうおっしゃるんですよね~

似てるけど……他人のそら似か、

生き別れになった双子の片割れだって……」




「でも………」

と、刑事は続けた。




「こちらの捜査によりますと、

ほぼ間違いなく同一人物です。

チョン・ユンホ。

指定暴力団東方組の若頭です。」




「え………?」

THANK U 11




次に意識が戻った時は病院のベッドの上だった。



多分、銃のようなモノで肩を撃たれてはいたが、


弾は肩をかすっただけで軽症だと医者に言われた。



撃たれたショックと出血で、

意識を失ったらしい。



傷を綺麗に縫合してもらい、痛み止めや化膿止めの薬をいくつかもらって、


翌日にはもう退院し帰ってよいと言われた。



病院の前でタクシーを拾いアパートに帰ろうと思ったのだが、



途中、ユノさんの店が目に入り、

店の前でタクシーを降りた。



ユノさんのカフェには、

黄色いテープが張られていた。



周りにはパトカーが何台も停まっていて、


警察関係者らしき人達が何人も出入りしていた。



木目が美しかった木の扉はいくつもの弾に撃ち抜かれ、

穴が空き傾いている。



チリンチリンとかわいい音を鳴らしたドアベルは、

歪んでしまい、今にも取れそうだった。



道路側の窓ガラスはすべて粉々に割れていて、


所々、かろうじで窓枠が残っている程度だ。





ユノさんはどうしたのだろか………


無事なのだろうか……




『ミノ……

俺はもう行かなきゃ……

本当に……ごめんな……』




意識を失う前……


俺は朦朧とする中で、


ユノさんが言った言葉を……途切れ途切れだが覚えている。



『いままで……ありがとな……

さよなら……』



最後に……『さよなら……』と言われた気がする。




ユノさんは、ここにはもういないのだろうか………



夕べの銃撃戦のようなものはなんだったのだろう……



ユノさんが狙われたのだろうか………



俺が撃たれた時………

ユノさんは無事で動いていた。



大丈夫だったのだろうか……




俺はガラスが割れた窓から店の中を覗いてみた。




すると…………




「あれ!?

あんた!!」




店の中にいた男が、俺に声をかけた。

THANK U 10



「ミノ!!

大丈夫か!?

ミノ!!」




「ユノ……さ……ん……

うっ………」




俺は起き上がろうとして、

肩の痛みに断念し、

床に仰臥した。




「動くな。

肩を撃たれてる。」




撃たれ……て……?




周りは真っ暗だ。


電気がついていない。




ユノさんが俺の肩にタオルを押し当ててくれた。




「っ………」




「じっとしていろ。」




ユノさんはそう言うと立ち上がり、俺の視界から消えた。


店の奥からガタガタと音がした。




「ユノ……さん………?」




立ち上がってユノさんの後を追いかけたいのに、

俺は動けなかった。



肩がズキズキと痛み、

身体中がドクドクと脈打っているみたいだった。



眠い………


目を閉じたい。




遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。




「ミノ………」




意識が遠退きそうになった時………


ユノさんが俺を呼ぶ声が聞こえた。




「ミノ……

ごめん。

俺はもう行かなきゃ……

巻き込んですまなかった。

本当に……ごめんな……」




ユノさんが俺の頬を撫でてくれるのを感じた。




「ミノ……

いままで……ありがとな……

さよなら……」




ユノさんの悲しげな声が聞こえ………


俺は意識を失った。