苦いチョコレート

東方神起ミンホ。闇小説(ホラー&暴力系)多し。

THANK U 6




次の日、


俺は残業で、

何時もより少し遅れてカフェに着いた。




21時を少し過ぎた頃だった。





「こんばんは~」





店のドアを開けても、いつものユノさんの『いらっしゃい。』の声がなかった。



店の中には誰もいなかった。



電気は全部点いている。



店の扉の鍵も開いていた。



トイレに行ってるのかな……



待ってれは戻って来るか……



俺はスツールに座ってユノさんが戻るのを待った。



だが、10分たってもユノさんは戻ってこない。



長いトイレだな……



俺は心配になり、トイレに様子を見に行った。




「あれ……?」




トイレはドアが開いていて、中には誰もいなかった。




「ユノさん……?

どこに行ったんだ?」




ドアベルがカランカランと音をたてた。



ユノさんが戻ったのかと思ったら、

男性客が1人入ってきた。




「あれ?

マスターは?

留守?」




男性客は俺に聞いた。




「さあ………

さっきからいないんですよ……」




「ふーん……

トイレかな……」




「トイレにもいないんですよね。

あ………




店の奥から音が聞こえた気がした。




「ユノさん?」




カウンターの奥はキッチンになっていてユノさんが珈琲をいれる場所だ。


そのキッチンの中にもう一つ扉がある。


扉の奥は、ユノさんのプライベートスペースだ。



ここに住んでいるのだと言っていた。



俺は、ユノさんとずいぶん親しく話すようになってはいたが、


この奥に入ったことはない。



キッチンまでは何度か入ったことはあるが、

あの扉を開けたことはなかった。



ユノさんのプライベートスペース………


見たい………



俺はごくりと喉を鳴らし、

扉をコンコンと叩いた。



「ユノさん?

いますか?

お客さん来てるけど?」




応答がない。




俺は好奇心に負け、

思いきってドアノブに手をかけると、


扉を開いた。

THANK U 5



「あ、ミノいらっしゃ~い。

おかえり~」



カフェに入るとユノさんの綺麗な笑顔が迎えてくれた。


それだけで癒される。


俺専用のスツールに座ると、

ユノさんがオーダーを聞いてくれる。




「いつものでいい?」




「はい、お願いします。」




この“いつもの”ってのが大事だ。


いかにも常連って感じで、ちょっと優越感が湧く。




程なくして、良い香りと共に“いつもの”珈琲が俺の目の前におかれた。




「はい、どうぞ。

お疲れ様でした。」




「ありがとうございます。」




俺は一口飲んで、ため息をついた。



ユノさんの優しい声と笑顔、

それにうまい珈琲で、

1日の疲れも吹っ飛ぶ。




今日はさほど混んでいない。



俺の他に、


カップルが一組と、


女性の二人連れが一組、


あと常連の近所の老婦人が一人いた。





「そういえば……ユノさん。」




「ん?

何?」




俺の呼び掛けに、ユノさんが珈琲豆を挽きながら、きゅるんとした視線を向けてくれる。


かわいい。




「この前から……この辺……

変な車が停まっていないですか?」




「車……?」




ユノさんが手を止めた。




「はい、なんか……その道の方々っていうか……

黒塗りのいかにもって感じの車です。」




「いつ?

いつ見たんだ?」




ユノさんの声が固くなった。




「今来るときもいましたよ。

あとは……一昨日かな。」




「あ、私もそれ見たわ。」




カウンターの側に座っていた常連の老婦人が話しかけてきた。




「道路の向かい側だったけど、

路駐していたわ。

この辺じゃ、あんな変な車珍しいから『なんだろ?』って思ったの。」




老婦人は窓から外を見た。




「なんだか……このお店の様子をうかがっているみたいだったから、

気になったのよね。」




老婦人は「割り込んでごめんなさいね。」と、

俺に声をけた。




「ユノさん?」




ユノさんは俺達の話に、


うつむき何か考えている様子だった。




「あ……うん何?」




「何か心あたりがあるんですか?」




俺はユノさんに聞いた。




「いや……何もないけど……

嫌だな……と思って……」




「怖いわよね。」と、老夫人がつぶやいた。




「ユノちゃん、美人さんだし、

一人暮らしだから、

変なのに目を付けられたら大変。

気をつけてね。」




「あ~は~は~………ありがとうございます~」




老婦人の言葉にユノさんは可笑しそうに笑った。




まぁ……美人だけど、

男だしなぁ……


女性の独り暮らしって訳じゃないし……




俺はこの時呑気に、そう考えていた。

THANK U 4




俺は仕事の帰りに毎日ユノさんのカフェに通うようになった。



小さなカフェなので、


平日でも、

客席は女の子で埋まっているのことが多い。



俺は邪魔にならないようにカウンターのスツールに座った。



カウンターには、本来スツールは無かったのだが、


俺が行った時、

たまたま満席で座るところがなかった時があり、


仕方なく帰ろうとした俺に、


ユノさんが、奥から自分用のスツールを出してきてくれた。



それ以来、

そのスツールは俺専用の指定席になった。



カウンターに座り、


珈琲の良い香りに包まれながら、


ユノさんがいれてくれた美味しい珈琲を飲み、


珈琲を入れている美しいユノさんを眺めながら、


ユノさんの邪魔にならない程度に話をしていると、


1日の疲れやストレスが、スーっと消えていくようだった。




ユノさんのカフェで過ごす時間は、俺の中でなくてはならないものになっていった。




ある日………


いつものように仕事帰りに駅からカフェに向かって歩いていると、


カフェより一つ手前の路地に見慣れない車を見かけた。


窓も車体も黒塗りで、いかにも怪しげな車だ。



助手席の窓が少し開いていて、

車の中の男が煙草を吸っていた。


窓の隙間から、

これまたいかにもその筋の方々といった男達が乗っているのが見えた。



この辺は、ただの住宅街だ。


特に高級住宅街でもなければ、

治安が悪い地域というわけでもない。


ごくごく普通の住宅街だ。


その住宅街のど真ん中に停まっている黒塗りの怪しげな車は、

街に似合わず不穏な空気をかもしだしていた。



だが……たかが車一台だ。

 


俺はたいして気にせず、

早くユノさんに会いたくて、

ユノさんのカフェに急いだ。



だが……次の日にも……


前日とは違う車だったが、


怪しげな男達を乗せた車が、

ユノさんのカフェから少し離れた場所に止まっていた。