苦いチョコレート

東方神起ミンホ。闇小説(ホラー&暴力系)多し。

魔身30



ユノはすぐには、

現状を受け入れることはできなかった。



しかし、


見えない目で、

火を起こそうとしたり、

湯を沸かそとしたりするチャンミン王を見て、


いてもたってもいられなくなった。



動物達は、すんなりチャンミン王を受け入れたようで、

チャンミン王が水を汲んだり、

薪を持ってきたりするのを手伝っていた。




「あちっ!!」



「チャンミン様!?」



ユノのためにお茶をいれようとしていたチャンミン王が、

湯をポットにいれそこね、声をあげた。



ユノは思わずチャンミン王に駆け寄った。



「大丈夫ですか!?

火傷しませんでしたか!?」



「大丈夫だ。」




チャンミン王の左手の指先が赤くなっている。




「冷やしましょう。」



ユノはチャンミン王を台所に連れていくと、

チャンミン王の左手を水で冷やした。




「ありがとう。」




礼を言うチャンミン王の顔を、

ユノは見た。



チャンミン王の目は開いている。


だがその瞳からは、

美しいブラウンの色は失われ、

視線が定まっていない。



そして何より、

チャンミン王は石にならない。


ほんとうにユノの姿が、

見えていないのだ。




「もう、大丈夫だ。

ありがとう。」




「はい。」




二人は暖炉の側に戻った。


ユノはチャンミン王を、

テーブルの所にある椅子に座らせた。




ユノは入れかけのお茶を、

2つのカップにそそいだ。




「火を起こしたり、

湯を沸かしたり、

お上手ですね。

チャンミン様がそのようなことをなさっているのを、

初めて見ました。」



ユノはお茶のカップをチャンミン王に渡した。



「ただの盲目の男では、

そなた迷惑をかけるだけだ。

自分の身の回りのことくらいは、

自分で出来るように訓練してきた。」




「チャンミン様らしい‥‥」と、

ユノは微笑んだ。



チャンミン王はいつだって、

何ごとにも真剣に取り組み、

一生懸命だった。




ユノはお茶を一口飲んだ。




「美味しい‥‥」




愛しい人が、

火を起こし、

湯を沸かしてくれ淹れたお茶だ。



美味しくないわけない。



二人は小さなテーブルを挟んで向かい合って座り、黙ってお茶を飲んだ。




「チャンミン様‥‥」



お茶を飲み終えると、

ユノはカップを置き、


チャンミン王に向き合った。




「それを飲み終えたら‥‥

城にお戻りください。

ブランがまた、案内するでしょう。」



ユノは窓の外を見た。



白い愛馬が、

森の鹿や兎達と一緒に、


庭の草を食んでいる。




「そして、お願いです。

医師の治療をちゃんと受けてください。

我が国の医師団は優秀だ。

ひょっとしたらまだ‥‥光が戻るかもしれません。」



「ユノ‥‥」



「あなたはこの国の王だ。

たくさんの人があなたを必要としています。」



チャンミン王は、稀代の名君と言われた王だ。



「私は‥‥1人でも大丈夫です。」



ユノは俯いた。




「城にはもう帰れない。」




チャンミンは真っ直ぐユノの方を向き、

そう言った。




「王位も城も皇太子に譲ってきた。

今頃は、皇太子の戴冠式もすんでいる頃だろう。

皇太子は、妻と子を伴い、

城に移り住んでいる。

城に戻っても、もう私の居場所は無い。」




「っ‥‥‥

そん‥‥な‥‥‥」




ユノは唇を震わせた。




「私にはもう帰る場所が無い。」



チャンミン王は手を伸ばし、

ユノの手を探しあてると、

握りしめた。




「ユノ‥‥

私をそなたの側においてくれ。

私は、ここを追い出されたら、

行く場所が無いんだ。」




チャンミン王は、いたずらっ子のような顔をして笑顔を見せた。




ユノの黒い瞳が涙でゆらゆらと揺らいだ。




「お願いだ。

ユノ‥‥

私を側においてくれ。」



チャンミンはユノの手を握る手に、

力を込めた。




「しかた‥ありませんね‥‥」



ユノは、チャンミン王の手を握り返した。



「私が一生‥‥面倒をみて差し上げます。」



ユノの頬を涙が伝った。




「ありがとう。」




二人は手を取り合い、

優しく口づけた。